腎泌尿器病 Urological Disease

 腎泌尿器系は体内の代謝により生成された老廃物を尿として体外に捨てる排出器官です。老廃物の代表は尿素であり、蛋白質が肝臓で分解されて尿素となり、腎臓で尿として排出されます。また、腎臓は老廃物の排出だけでなく、余分な水分や塩分の排出、まだ利用できる栄養分の再吸収など、体液の組成を常に一定に保つ(恒常性)重要な役割を担っています。腎泌尿器系は尿を生成する器官である腎臓と腎臓から尿を膀胱へ運搬する尿管、尿を一時的に貯留する膀胱、膀胱から体外へ尿を運搬する尿道の4つから構成されます。

  • 急性腎不全

 急性腎不全は、犬や猫に発生し、数時間~数日という短期間のうちに急激に腎臓の濾過機能が低下する病気で、早く治療を行わないと命を失うことも少なくなりません。

 急性腎不全の原因として、腎前性、腎性、腎後性の3つに分けられます。

  1. 腎前性:腎臓に流れ込む血液量の減少によるもの
         例)脱水、出血、ショック、心臓病など
  2. 腎性:腎臓自体の障害によるもの
         例)ショック、高体温、脱水や出血などによる腎臓の虚血によるもの、中毒物質など
         腎毒性物質によるもの、糸球体腎炎など免疫介在性疾患、レプトスピラ症や腎盂腎炎
         などによる感染症、ブドウを食べて腎不全になることも知られています。
  3. 腎後性:尿管、膀胱、尿道のいずれかの障害によって尿が体の外へ排出されないことによる
         もの(尿路閉塞)
         例)猫で多い尿結石による閉塞(猫下部尿路疾患)、事故による外傷性損傷など
         症状として、突然、元気や食欲がなくなり、嘔吐が認められることも多いです。
         尿量が減少したり、全く出なくなることもあります。また、尿路閉塞などでは、
         尿をする格好をしきりにしたり、何か所にも尿を少しずつしたり(血尿の場合が
         多い)するといった症状を示します。便秘と勘違いされて来られる飼い主の方も
         いらっしゃいます。

 診断は、血液検査を行います。血液検査にて、腎臓の値が高くなっていたり、電解質のバランスが崩れていたりしていることで診断しますが、触診や腹部超音波検査、レントゲン検査(尿路造影)などを行いより詳細な検査を行います。腎臓や膀胱などに腫瘍が見つかることもあります。

治療法

 急性腎不全は死亡する危険性が高い病気ですので、入院での治療が必要です。まずは静脈内点滴治療を行い脱水を補正し、その病態に合わせて様々な薬剤を使用していきます。いろんな治療をしても尿が出ない場合や中毒の場合など、内科的に腎不全がコントロールできない場合には、腹膜透析や血液透析を行うこともあります。

血液透析
 犬や猫でも血液透析を行うことができます。急性腎不全や中毒などで行うことがあります。他の透析法として、お腹に点滴を入れて抜いていく腹膜透析という方法もあります。

また、雄猫で多い尿路結石などによる急性腎不全では、まずは膀胱に針を刺して膀胱内の尿を抜き去り、その後尿道からチューブを膀胱まで入れ、排尿経路を確保することが非常に重要です。高カリウム血症になり、心臓が止まりかけている子も珍しくありませんので、血液検査を早急に行いそれらに対する治療も同時に行っていきます。急性腎不全は、緊急治療が必要な疾患です。1週間程度の入院は必要になりますが、治療により元気を取り戻してくれる子もいれば、残念ながら急性腎不全がコントロールできずに死亡するもの、慢性腎臓病へ移行してしまうこともあります。また、腫瘍の場合には大掛かりな手術を行わなければならないこともあります。

  • 慢性腎臓病(CKD)

 慢性腎臓病(慢性腎不全)とは、腎臓の組織が数週間~数年をかけて障害を受け、不可逆性の機能不全に陥る状態です。腎臓は体内で作られた尿素や窒素など多くの代謝性老廃物を排出しますが、腎臓の機能が低下すると十分な排出ができなくなり、それらが体内に蓄積した状態、すなわち高窒素血症になります。高窒素血症が続くと尿毒素と呼ばれる有害な物質が体内に蓄積し、様々な障害を引きおこします。原因の特定は難しいのですが、一般的には老齢動物であるほど発生頻度が高くなります。急性腎不全から慢性腎臓病に移行することもめずらしくありません。  症状として、尿を濃縮する能力が低下するため多尿となり、その分、水をたくさん飲むようになります(多飲多尿)。初期の慢性腎臓病は無症状であることが殆どですが、腎不全の悪化と共に、元気の消失、食欲不振、体重の減少、被毛粗剛、嘔吐、下痢、便秘、口臭、口内炎などが認められます。貧血、高血圧、電解質異常を認めることも多く、末期になると痙攣や昏睡が見られることがあります。

 診断は、血液検査や尿検査などで行います。痩せた猫では、触診で小さくごつごつした腎臓を触診で見つけることができます。慢性腎臓病という言葉は、その病態を示しているだけで、その原因は様々です。腫瘍や結石などのために慢性腎臓病に陥っていることもありますので、腹部超音波検査やレントゲン検査などを行い鑑別診断します。猫や犬でも血圧を測定してその値を測ります。

血圧測定
 犬や猫を落ち着かせた状態にして、血圧測定を行います。じっとしてくれる子ではスムーズに血圧の測定が行えます。特に、腎不全や心不全などの病気の場合には、必要に応じて血圧を測定します。動物が大人しくできない場合には、血圧測定をしても意味がなくなってしまいます。

 慢性腎臓病は、以下の表に示すように国際的な病期分類が知られています。

ステージ
分類
血清クレアチニン濃度
(mg/dl)
残存している
腎機能
病態
1.4未満 1.6未満 100-33% 尿濃縮能の低下、蛋白尿、腎臓の形状の異常などが観察される。
1.4-2.0 1.6-2.8 33-25% 軽度の高窒素血症、臨床症状なし~軽度(多因多尿など)
2.1-5.0 2.9-5.0 25-10% 中等度の高窒素血症
全身性の臨床症状(胃腸障害、貧血、代謝性アシドーシス等)が発現しはじめる。
5.0以上 5.0以上 10%以下 重度の高窒素血症、全身性の臨床症状
尿毒症(*1)

 *CKDの病期は蛋白尿と全身性高血圧の有無によって、さらに細かく分類されます。

サブステージ分類 尿蛋白/尿クレアチニン比(UPC)
非蛋白尿 0.2未満 0.2未満
ボーダーライン蛋白尿 0.2-0.5 0.2-0.4
蛋白尿 0.5以上 0.5以上
サブステージ分類 収縮期血圧(mmHg) 拡張期血圧(mmHg)
最小リスク 150未満 95未満
低リスク 150-159 95-99
中等度リスク 160-179 100-119
高リスク 180以上 120以上

 (*1)尿毒症とは高窒素血症が続き、尿毒素と呼ばれる有害な物質が体内に蓄積した状態をいいます。食欲不振、嘔吐、下痢、便秘、被毛粗剛、体重減少、尿臭のする息、痙攣、昏睡など多くの全身性の症状を示します。

治療法

 慢性腎臓病の治療は、その病期ステージ・症状に合わせて、食事療法、血管拡張薬(CKDの進行阻止・腎組織保護効果)、吸着剤(尿から排出されるべき老廃物を吸着し便として排出)、血圧降下剤、点滴治療、造血剤(貧血に対して)といった治療を組み合わせて行います。残念ながら、CKDによって失われた腎機能は回復することができないため、残っている腎臓の組織を温存し進行を抑制すること、症状の緩和をとることが治療の目標になります。慢性腎臓病は、静かに進行していく病気で早期の段階ではまず気づいてあげられません。この病気は加齢とともに罹患率は増加しますので、特に7歳以上になってくると定期的な健康診断が欠かせません。食事療法やお薬の投与によって寿命が伸びることが知られていますので、早期発見早期治療が最も大切です。

  • 糸球体腎炎

 腎臓の糸球体が炎症を起こす病気です。単独で起こる場合と他の病気に伴って起こる場合があります。原因の1つとして免疫が関係していると考えられています。免疫の異常を引き起こす関連疾患として、感染症(フィラリア症、犬アデノウイルスⅡ型感染症、子宮蓄膿症、猫伝染性腹膜炎、猫白血病ウイルス感染症など)、全身性エリテマトーデス、免疫介在性溶血性貧血、副腎皮質機能亢進症、膵炎、リンパ腫などが報告されています。また、遺伝性が疑われる犬種はとしては、ドーベルマンピンシャー、バーニーズマウンテンドック、ビーグル、ゴールデンレトリバーなどあげられます。

 この病気は、急性型と慢性型があり、それぞれ急性腎不全、慢性腎不全の症状を示します。他の病気を伴っている場合はその病気によって様々な症状を示します。蛋白尿が共通した症状であり、高血圧・それに伴う網膜剥離など目の異常が認められることがあります。ネフローゼ症候群(蛋白尿、低アルブミン血症、高コレステロール血症、浮腫や腹水など)を示す場合もあります。

治療法

 治療として、原因となる病気がある場合はその治療を行います。原因となる病気が見つからない場合、その治療を行っても改善がない場合は腎不全の治療が中心となります。

  • 腎盂腎炎

 腎盂腎炎は、腎臓の腎盂や尿管などを含む上部尿路に感染が認められる疾患です。一般に、膀胱や尿道などの感染(下部尿路感染症)から、腎盂腎炎(上部尿路感染症)を合併します。症状として、急性型では発熱や食欲不振、嘔吐、腎臓の圧痛を認めます。慢性型では多飲多尿以外には無症状のことも多く、徐々に慢性腎不全に移行します。腎盂腎炎は尿路性敗血症といって、細菌が全身に回ってしまう合併症を生じ、非常に危険な状態に陥ることがあります。症状として、多飲多尿、発熱、腹部の痛み、排尿困難、血尿などがあります。

 診断は、血液検査や尿検査などで行います。尿の細菌培養を行うとその原因菌の診断に役立ちますが、その結果が出る前に尿検査で細菌や白血球が認められた時点で抗生物質を投与していきます。腎結石をともなっていることも珍しくありませんので、腹部超音波検査やレントゲン検査を行います。

治療法

 治療は、腎不全の治療と共に、尿の流れを妨げる原因や細菌感染の温床を可能な限り除去したうえで、感受性試験の結果や尿への移行のよい適切な抗生物質を十分な期間投与します。

  • 水腎症

 水腎症とは、尿の流出障害によって腎臓の腎盂が拡張した状態を示します。原因として、尿路結石、感染症、血餅、外傷、神経障害、先天的な異常、医原性など、尿の流出障害を起こす様々なものが知られています。症状として、片側性であれば無症状で経過することも多いですが、両側性であったり二次性の細菌感染を合併した場合は尿毒症(腎不全)、発熱など全身症状を伴います。診断は、レントゲン検査や超音波検査で拡張した腎盂を検出します。尿路造影によって腎臓の機能を評価します。

腎臓超音波検査
 腎臓の中に液体貯留が認められ、腎臓が大きく拡張しています。また液体は、下の方により重い成分の液体が貯まっています(写真でいうと右側)

腹部レントゲン検査
 排泄性尿路造影検査ですが、向かって右の腎臓(左腎)は造影剤で染まっていますが、反対側の大きくなっている腎臓(右腎:矢印)は、造影剤で染まりません。右腎を尿管ごと摘出術しました。

治療法

 治療は、尿の流出障害を取り除くことによって治療します。しかしながら、腎盂が著しく拡張して腎実質がほとんど残っておらず、腎臓としての機能を失っている場合、膿腎といって感染を伴っている場合などは、その腎臓および尿管を摘出することもあります。ただし、片方の腎臓の機能がしっかり維持されていることが前提となります。すでに、血液検査で腎不全を発症している場合には、手術はできませんので、腎不全の治療を行います。

  • 多発性嚢胞腎

 腎臓に嚢胞を形成し、徐々に嚢胞が拡大していくことで腎組織を圧迫し、慢性腎臓病(CKD)の病態をとっていきます。原因として遺伝的な背景が証明されており、ペルシャ系の長毛種に多いとされていますが、近年ではアメリカンショートヘアでの発生や他の短毛雑種猫でも発症の報告がみられます。無症状で長期間経過し、中年齢以降の腎不全として発見されることが多いです。病態の進行により、お腹を触ると腫瘤状に腫大した左右の腎臓が確認されるようになります。診断は、腹部の超音波検査で嚢胞の個数や大きさを確認できます。

腎臓超音波検査
 腎臓の形がわからないくらい、いろんな大きさの嚢胞が認められます。ドーナッツみたいなエコー像が1つ1つの嚢胞で、一般的にそれぞれの嚢胞は時間と共に大きくなっていきます。

治療法

 嚢胞形成を食い止める根本的な治療はありません。嚢胞内の液体を注射器で吸引・減量する処置を行うことがありますが、慢性的に進行する腎機能の低下に対する対症療法を、CKDの治療法に準じて実施していきます。

  • 腎嚢胞

 腎臓に見られる嚢状の構造物(嚢胞)で液体で満たされています。1~2個の嚢胞が片方の腎臓に認められ、臨床上特に問題となることはありません。

  • 腎周囲偽嚢胞

 腎臓の表面を被う被膜と腎臓の間に液体(浸出液や血液、尿など)が貯留した状態をいいます。高齢の猫に多く、腎臓の片側または両側に起こります。原因は不明です。症状を示さないことが多く、腹部が大きくなることで異常に気がつきます。腎不全を伴うことがあります。無治療のままでよいこともありますが、定期的な液体の吸引、腎被膜の切除術を実施することもあります。腎不全になっていないか定期健診が必要です。

  • 尿石症

 腎臓、尿管、膀胱、尿道のどの部位においても無機質の石状の塊が形成されることがあり、その場所によって腎結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石と呼ばれます。腎結石および尿管結石は比較的稀であり、結石の多くは膀胱で形成され、尿道を通って下降します。 症状として、頻尿、血尿、再発性の膀胱炎、尿路閉塞などを示します。無症状のこともあります。診断として、腹部のレントゲン検査(単純、造影)、超音波検査によって結石の存在を確認します。結石の種類は尿の沈さを検査することでおおよそ判断することができます。

結石の種類

 結石の成分は様々ですが、ストラバイト、シュウ酸カルシウム(近年増加傾向)が最も一般的であり、犬と猫の尿石症の80%以上を占めます。

  1. ストラバイト(リン酸マグネシウムアンモニウム)

ストラバイト結石
 尿pHは、中性~アルカリ性で、若齢から認められます。様々な犬や猫に見られますが、好発犬種として、ミニチュアシュナウザー、ビションフリーゼ、コッカースパニエル、ミニチュアプードルなどが知られています。犬では尿路感染を伴っていることが非常に多く、猫では無菌性のことが多い。

顕微鏡検査
 尿の顕微鏡検査にてストラバイト結晶が見つかれば、この病気です。結晶が砂みたいな小さな結石となり、上記のような大きな結石となっていきます。結晶が認められたらすぐに治療を開始です。

  1. シュウ酸カルシウム

シュウ酸カルシウム結石
 尿pHは、酸性~中性で、中高齢から認められます。こちらも様々な犬や猫に見られますが、好発犬種として、ミニチュアシュナウザー、ミニチュアプードル、ヨークシャーテリア、シーズー、バーマン、ペルシャ、ヒマラヤンなどが知られています。

顕微鏡検査
 尿の顕微鏡検査でシュウ酸結晶が見つかったら要注意です。この結晶(結石)は溶かすことのできないのです。膀胱結石が見つかれば手術となります。術後も、完全な食事管理にて予防(治療)していきます。

  1. 尿酸塩

尿酸アンモニウム結石
 尿pHは、酸性~中性で、若齢で認められることが多いです。好発犬種として、ダルメシアン、イングリッシュブルドック、ミニチュアシュナウザー、ヨークシャーテリアなどが知られています。また、門脈体循環シャント(PSS)との関連性も知られています。

 なお、尿中に結晶が出た=尿結石が存在するとはかぎりませんが、いつ結石ができてもおかしくない危険信号(イエローカード)だと思って下さい。尿検査で結晶が発見されたら、画像検査(腹部レントゲン、超音波検査)で結石が形成されていないかどうか確認をお勧めします。

治療法

 治療は、大きな結石や溶けないタイプの結石の場合は外科的に取り除くことがありますが、尿石症の治療の主軸は結石の溶解や再発防止のための食事療法となります。尿路感染に対する抗生物質の投与、尿pHの安定化のためのサプリメントなどを併用することもあります。注意していただきたいのは、せっかく療法食を食べていても療法食以外のフードやおやつを与えると「結石の素」を与えていることになる、ということです。療法食は様々な種類がありますが、尿結石の種類、年齢、体格、基礎疾患の有無で適切な療法食を判断する必要があります。なかなか療法食を食べてくれない…そういったお悩みもよくお聞きします。その子にあったフードや与え方など御相談を承りますので、気軽にスタッフに声をかけてください。

  • 下部尿路感染症

 この病気は、下部尿路(膀胱、尿道)への細菌などが感染する病気ですが、この病気は猫よりも犬に起こりやすい傾向があります(猫では下部尿路の炎症はよく見られますが、細菌感染が原因となることは多くはありません)。尿道が太くて短い解剖学的特徴から、雌に発生しやすい傾向があります。細菌は体の外から尿道に入り、膀胱に達します。さらに、細菌の侵入が進むと尿管や腎臓にも達し、腎盂腎炎などを引き起こします。  症状として、炎症を伴う場合、排尿時に痛みがあり陰部をなめ、何度もトイレに行くようになります。血尿を引き起こすことも多いです。診断は、尿検査において細菌、白血球、赤血球を顕微鏡で確認します。また、尿がアルカリ性傾くことが多いです。可能であれば、尿を培養して病原体の特定、抗生物資の感受性試験を実施します。

顕微鏡検査
 尿(細菌性膀胱炎)の顕微鏡検査です。丸く写っているのは白血球で、あたり一面に見られるのが細菌です。尿に白血球が見られることと細菌がいることで尿の感染を診断します。

治療法

 治療は、抗生物質の投与を実施します。単純性の尿路感染は通常、適切な抗生物質の投与で治癒します。解剖学的な異常、排尿障害、腫瘍や結石で粘膜に傷がつく、糖尿病、クッシング症候群、免疫の低下など易感染性の疾患がある場合は尿路感染にかかりやすく難治性となることが多いので注意が必要となります。

  • 猫の特発性下部尿路疾患(特発性膀胱炎)

 猫の下部尿路疾患(頻尿、排尿困難、排尿痛、血尿、不適切排尿などの症状を特徴とする膀胱・尿道炎症状を示す疾患の総称)の中で明らかな原因が不明であるもの。危険因子として、飼育環境からのストレス、食事内容や季節変動に伴う飲水量の低下、肥満などが挙げられます。

治療法

 治療として、食事療法が主となりますが、上記の危険因子の軽減も重要です。

  • 尿道閉塞(尿閉)

 尿道が何らかの原因により閉鎖し尿が排泄できなくなる状態をいいます。原因として、尿道結石によるものが多いですが、重度の膀胱炎や腫瘍から発症することもあります。通常、尿道が細く長い雄に多く発生します。症状として、犬では落ち着きがなくなり、猫では何度もトイレに入り、排尿姿勢繰り返します。部分的な閉塞だとポタポタと尿を垂らしますが、完全閉塞になると尿がまったく排出されないため膀胱が尿でパンパンに張れ(腹部を触わると硬く張った膀胱が触れます)痛みを伴います。さらに、尿が排出できないことで急性腎不全を合併し、嘔吐、嘔吐、昏睡といった尿毒症の症状を示し、命の危険性を伴います。

治療法

 治療は、緊急処置が必要です。ほとんどの場合急性腎不全を伴っているため、尿道にカテーテルを挿入して閉塞を解除し尿路を確保します。さらに、輸液を併せて行います。緊急性が高い場合には、膨張した膀胱を穿刺して注射器で尿を抜き取った後に尿路の確保を行う場合もあります。犬では尿道に詰まった結石を膀胱内に押し戻した時には、膀胱切開で結石を取り除きます。猫では会陰尿道瘻設置術(尿道を広げ、尿がよく出るようにする手術)が再発防止に効果的なことがあります。いずれにせよ、食事療法を行うなど、その原因となった病気の治療を継続的に行っていきます。猫では、再発を繰り返すことがよくあります。

  • 腎臓の腫瘍

 犬と猫の腎臓腫瘍の発生は全腫瘍の中でも比較的発生率は低いといわれています。原発性の腎腫瘍は、犬では腎細胞癌、猫ではリンパ腫の発生が多いといわれています。症状として、元気・食欲の低下、体重減少、腹囲膨満、血尿など様々であり、特異的な症状は少ないです。  診断として、血液検査、レントゲン検査、超音波検査によって、腎機能の評価および腎臓腫瘍の浸潤の程度、転移病巣の有無を確認します。さらに針生検を実施し、腎臓腫瘍がリンパ腫かその他の腫瘍かを検査します。

治療法

 治療は、腎臓腫瘍がリンパ腫と診断された場合は、化学療法が適応となります。腎臓腫瘍がリンパ腫以外の腫瘍であった場合、腎臓の機能や転移病巣の有無を評価し、手術適応であれば摘出手術を実施します。

  • 膀胱腫瘍

 犬の膀胱腫瘍は悪性腫瘍のうち約2%を占め、移行上皮癌が最も発生率が高いといわれています。一方、猫における膀胱腫瘍の報告は犬と比較して少ないです。高齢の動物に発生が多く、好発品種としてスコテイッシュテリア、ウエストハイランドホワイトテリア、シェットランドシープドック、ビーグル、ワイヤーヘアードテリアがあげられます。症状として、血尿、頻尿、排尿困難、不適切な排尿などが数週間~数カ月認められ、抗菌剤などの治療で一時的な症状の改善が認められることがあります。  診断は、全身状態の評価および膀胱腫瘍の確認のため、一般身体検査、血液検査、尿検査、単純X線検査(胸・腹)、造影Ⅹ線検査、腹部超音波検査を実施します。さらに、腫瘍の解剖学的発生部位および他臓器への転移の有無の確認にはCT検査が有用になります。確定診断には腫瘤の生検による病理組織学的な検査が必要になりますが、無麻酔・非侵襲的に行える検査として、膀胱の移行上皮癌に特異的に出現する腫瘍蛋白を検出する検査や尿沈渣に出現する腫瘍細胞の細胞学的診断を併せて実施することで診断の補助になることがあります。

膀胱超音波検査
 膀胱内に膀胱腫瘍が認められました。腫瘍のできる場所や大きさにより、手術の適応が決まります。この子は移行上皮癌でした。膀胱炎などを合併していることも多いので、これらの検査は非常に重要です。

治療法

 治療は、腫瘍の外科的な摘出を行います。十分なマージンが確保され、外科的切除が可能であれば、根治の可能性があります。しかしながら、膀胱腫瘍はその発生部位が膀胱三角(尿管・尿道の開口部)付近であることが多いため、外科的手術が困難なことも多いです。外科適応とならない移行上皮癌の場合、化学療法や緩和的支持療法を実施ししていきます。

  • 排尿障害

 排尿障害は、排尿困難(尿を出したくても出せない状態)と尿失禁(排尿が意識的に制御できない状態)に大別されます。原因は先天性の解剖学的異常、膀胱の異常(膀胱炎、膀胱結石、膀胱腫瘍、膀胱の外傷性損傷など)、膀胱周囲の解剖学的異常(尿管瘤、子宮の異常、会陰ヘルニアなど)、尿道の異常(尿道炎、尿道結石、尿道栓、尿道腫瘍、尿道の外傷性損傷、尿道狭窄など)前立腺疾患(前立腺肥大、前立腺炎、前立腺膿瘍・嚢胞、前立腺腫瘍など)、神経性(自律神経失調症、脊髄病変)、ホルモン性(性ホルモンの変化によるもので、加齢性、避妊・去勢後の数カ月~数年後に発症することがあります)、ストレス性など様々です。排尿障害の原因となっている基礎疾患を見つけるため身体検査、血液検査、尿検査、レントゲン検査(単純、造影)、超音波検査、神経学的検査を実施し、それに対する治療を行います。

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